遠山郷・霜月繁り
神が天から舞い降りた
南信州・遠山郷は、天竜川と合流する遠山川の深い谷間にある。西に木曽山脈(中央アルプス〉、東には伊那の山がそぴえ、その奥には聖岳をはじめ標高3000メートル級の南アルプスの山々が連なっている。
秘教遠山郷は、上村・南信濃村(現飯田市)の二の集落からなり、天竜川にそそぐ上村川沿いには、かっての信仰の道あきはみち≠ニいわれる秋葉街道の宿場の面影をわずかばかり残している。
この遠山郷で、森閑とした冬の十二月の霜月に、山人の神々と自然を慈しむ古い祭式を今日に伝える湯立ての神事「霜月祭り」が行われる。
凍てつく寒さの中、遠山の里では夜を徹して鬼が舞い、煮えたぎる釜の湯をまき散らして邪気を払い、春を迎える山人の豊穣を願う素朴な心を芸能に託してきた。
深淵の闇に沈むやまづとに、燃えさかる炎をかこみ、神楽歌の奏上に招かれた諸々の神々と山人が一体となり、祈り・崇め・畏れ・祀る――、神秘的ともいえる山住の素朴な祭り信仰は、遠山郷の十三ヶ所で繰り広げられる。
魔物を追い払い、すべてを統合する神と信じられている天伯(てんぱく)が五方に矢を放てば、天地は鎮ま、新たな年を迎えようとする生気が満ちてくるという。
厳しい自然が育む、村人たちの素朴な神への信仰と絆は、今も変わらない古い祭式を保ちながら、秘境遠山郷になお生き続けている。
宗形 慧
|